絵チャSS
ゆっくりと、家までの道を歩く。
今日は一緒にいる間中、ずっと手を繋いでいた。
もうくっついてしまったんじゃないかと思うくらい、長い間手を繋いでいる。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう別れなければいけない時間だ。
別れの時間は間違いなく迫っていて、それを悪あがきだと知りつつも、少しでも延ばそうとしてゆっくりと家までの道をたどる。
けれど、それも本当にわずかの間だけだ。
アパートが見えて、家の前まで来てしまい、亜貴は寂しくなる。
霊園の中の散歩も、地味な神社のお参りも、乃凪と一緒だというだけで楽しい。乃凪が楽しんでくれているというのが、何より亜貴にとっては嬉しかった。
離れがたい。
乃凪の手を強く握ると、困ったように乃凪が笑った。
「もう、家の前だよ?」
「わかって、ます」
乃凪の顔が見れず、うつむく。
明日も学校で会えるのに、どうしてこんなに別れたくないのだろうと思う。
乃凪が小さく息を吐いた。
困らせているのはわかっている。
それなのに、亜貴は握った手を離せない。
「依藤さん」
名を呼ばれる。
身体が震えて、けれど乃凪を見上げた。
やはりそこには困ったような顔があって、亜貴は眉を寄せた。
「離さなきゃ、だめ、ですよね」
寂しい、というのが正しいのかもわからない。
ただ離れたくなくて、一緒にいたくて、それだけで。
亜貴は繋いだ手に視線を落とす。
ゆっくり力を抜こうとした手を、今度は乃凪が握り締めた。
「……乃凪先輩?」
顔を上げると、乃凪はまだ困ったような顔をしている。
「………離れたく、ないな」
恥ずかしくなってうつむくと、乃凪が亜貴を呼んだ。
「依藤さん?」
「はい」
手を握り合ったまま、乃凪を見ると、真剣な目がそこにあった。
端正な顔が近づく。
あ、と思った瞬間、それが触れて、離れる。
「…じゃあ、また明日ね」
驚いた亜貴が、手の力を抜いた隙に、乃凪の手がそこから抜ける。
踵を返した乃凪の耳が赤い。
しかし、亜貴は別れの言葉も告げることができず呆然とそれを見送った。
乃凪が視界から消えてから、ようやく亜貴はゆるゆると動き出す。
されたことを理解して、反芻して、唇を指で押さえる。
「………先輩の、ばか」
小さな呟きは、風に乗って消えた。








絵チャログより、空野さんのSSでしたー。
このあと乃凪は真っ赤になって延々とキスを思い返しながら家まで帰るんですね!
 
(071013開催)



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