無から有は生まれない。 全ての物事には母たる存在があり、そこには意義が与えられている。 ちっぽけな虫であろうと、巨大な樹木であろうと、為すすべのない人間であろうとも。 そこに在るからには、生まれついたからには、その身に何かを……巨大な輪であったり、多数の中の一つとしての歯車であったり……抱え込んでいるのだ。 知らないわけではないだろう? 無意識のうちに自身の為すべきことを為すべきように行っているはずだ。 我が、他者が、そこに在るのだから。 そう、だからお前も。 そう、きっとアタシも。 ◆序章1 〜眠り〜 少女は歩き続けていた。 言葉は一言も発さず、連れとなる仲間もいない。 ただ前に進むだけの足はとうに疲労の極致に達していた。 いつ倒れてもおかしくないほどに力の入らない身体を支え、それでも少女は歩き続けた。洞窟の湿った岩壁に片手をついて、少女が持つにしては大きく頑強な剣を杖代わりの支えとし、顔が地面に降りていきそうになるのを必死に止め、瞳はまっすぐに行く手を見つめている。 果たして目的があるのやら、その姿は迷った子供のようにも見えた。 「…………」 何かが来る。 少女の直感が頭の中でそう叫んだ。 変わりのない、何者も存在しない闇の洞窟、しかし確かに何かがやってくる。 本能が告げるままに剣を構えて、辺りを探った。 「……!」 それは突然現れた。 岩壁の溝からたった今生まれたかのような、奇妙な現れ方だった。洞窟の奥から闇に乗じて現れたのではない。しかし、だとすれば一体どこから? 菱形の石版がゆっくりと回転しながら、少女の目前に迫る。 考えている暇などなかった。 後ずさる。 逃げなくては。 逃げなくてはいけない、そうだ、逃げろ。 しかし逃げる気力は彼女の疲労しきった身体に残っていなかった。 いっそこのまま身を委ねてしまいたい。 そう考えた一瞬。 彼女は石版に取り込まれるように、姿を消した。 残ったのは少女によく似た一体のフィギュア。 それもまた、数秒後には消え去った。 Next→ 05.1.10 UP |