森の外で待つ






想像してなかった。
森から出て穏やかなひと時を、
得るような事があるなんて。
そんな時間を。
共有できるひとに出会えるなんて。

生きる為に。
戦って誰かを傷つけて。
生と死の重みも知っているつもりだけれど。
私はただがむしゃらに進むしかなくて。
大切なひとは生まれる前にいた場所へと還り、
そこにはもう亡く。
森には、もう私の居場所はないから。
自分は決して人になれない獣のようだと。
思ったこともあった。
誰かの機嫌を取る為に微笑む事も。
時には必要不可欠と思えるのに。
場を和ます気の聞いた言葉を口にする事も。
誰かにとっては簡単なそれも。私には難しく。
私に出来る事は限られていてた。

森を出て。私はもう、戻る場所はなくて。
結局私は私のままで。
やはり、誰にもなれなくて。
譲れない事柄には、相手を見据え声を荒げずとも
刃物のようにきつい物言いで、突き放す。
そんな振る舞いを変えることもできない。

穏やかに暖かに微笑んでいれればいい。
相手に安らぎを。傷ついているひとには慰めを。
けれど言葉足らずな私は、
励ましをかけることもできず、
ただ傍に居るしか出来なくて。
ときには、大勢の人たちが居る場所から離れ。
遠巻きに静かな視線を注ぐだけことしかできなかった。

そんな私を誰が受け止めてくれるだろう。
オウルは、以前、私にそういう相手が出来る事を望
んでいた。それを知っている。それでも。
----もし現れるなら、それはとても物好き。
きっとそんなひといないわ、と思えば、
彼女は見通すように笑って、
「必ず出逢うさ、必ずね」と言ったのだ。


その人の手が私の髪を梳いている。
時々、その指が私の地肌を、掠める。
どうしてか、ほんの少し触れられた箇所が熱い。
正体不明の熱に動揺しても、答えは見つからない。
私はそのひとにもたれかかって眠気を覚えながらも、
ぼんやりと物思いに耽る。
衣服を通して感じるそのひとに流れる血潮。
背後から苦しくない程度にしっかりと、
抱きしめられている。
こんな風に、誰かに触れられる事なんて、
無いと、思っていたのに。

一人が寂しくて堪らないわけじゃない。
だから一緒にいて欲しかったわけじゃない。
でも、このひとのぬくもりにとても落ち着く瞬間が、
確かに私にもあるのだという事の驚き。

こんな私を誰が受け入れてくれるのか疑問だった。
なのに、貴方は、受け入れてくれるのね。
優しく抱きしめてくれるその腕に縋りたくなるほど
私は弱いわけでも、寂しいわけでも、
ないけれど。
でも、途方に暮れる時も、零ではないから。
貴方の前なら、多分私はいつも私でいられる。
貴方は私に多くを求めず、
どうしてか、傍に居てくれるから。

貴方の腕の中は温かいわ。
私は貴方の前では安心して眠れるの。
そういうと、貴方はその顔をほんの少ししかめ、複雑そうな様子を見せたけれど。
・・・・どうしてそんな顔をするのかしら?
信頼しているという事を言いたかっただけなのだけど、うまく伝わらないわね。
他の誰かの前では、私はこんな状況に身を委ねたりなんてしない。
誰でも良いなんて、私は決して思わないから。

言葉は難しい。
伏せた瞼越しに、焚き火の黄金色の光が淡く透けて見える。いまの、この状況のお陰で、
肌寒いその季節でも寒くない。
それは、落ち着く時間。どのような不安からも解き放たれる瞬間。
だから、どうかもう少しの間、このままで。
できるだけ長く、貴方の傍にいたい。









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月下飛行のちえりさんに頂いてしまいました……!
もうクロ嬢が理想通りで!
優しくする方法を知らないだけで、本当はとても優しい子だと思います。
あんまりに純粋で、本当に私の絵では勿体ないくらいです。
こんな素敵な話を付けて下さり、本当にありがとうございましたv





2005.7.3