かみなり






 空はいたって晴天。
 温暖な気候のウィルミントンの自室にて、フルブライトは開け放した窓から入り込む風が揺らすカーテンとその向こうの景色を眺める。
 状況だけは爽やかでよろしい。
 気分もこれと同じくらい良ければ言うことはないのだが、実際のところ、フルブライトの機嫌は良いとは言い難いものだった。原因は小さな客人との他愛もない言い合い……犬も喰わない何とやら、である。

「ねーぇ」

 テーブルの向かいで少女が上目遣いによく似合う声を出す。もっとも少女に対して一瞥もくれないため、本当に彼女が上目遣いで話しているかどうかフルブライトが知っているわけではない。
 ふんわりとした髪を頭の上で自由に遊ばせた少女はテーブルに手を突き、前傾姿勢でもう一度尋ねる。

「ねぇってば……まだ怒ってるの?」
「ああ、怒ってるね」

 頬杖をついた右腕をタチアナの指が突っつく。
 一度目はそっと、二度目からは彼女らしくせっかちに。

「あたし、たくさん謝ったもん。許してくれるよね?」
「ダメだ」
「フルちゃんてばぁ」
「甘えても無駄だよ、タチアナくん」

 フルブライトは眉を寄せたまま、ぬるくなったコーヒーを啜る。
 普段ならとっくに折れて和解している頃だが、今回に限って許してやるつもりはまだなかった。
 いつまでも甘やかすから年若い恋人はわがまま放題、好き放題のまま成長が見られないのだ。
 大人として、一人の男として、毅然とした態度を取らなくてはならない。なんとしてもそうすべきだ、うん。
 誰に求められだわけでもないが、フルブライトは語りかけるようにおおげさに頷く。

「……もぉ、いいもん」

 わがまま娘が癇癪を起こしにかかったか。
 今日の捨て台詞は「おうちに帰る」か? 「大嫌い」か?
 迎えに行くときの品は欲しがっていたくまちゃん用のブローチにでもするか、などとフルブライトの頭の中は次の段階の作戦立てに入っていた。
 ガタガタ揺れるテーブルに内心ため息をつき、来るべき台詞に身構える。

「……タチアナくん?」

 予想していたのとは違う行動、ある意味それも衝撃で。
 がたがたと音を立てていたのは、テーブルから乱暴に離れるためではなかったらしい。
 テーブルの上に乗ったタチアナの細い腕がフルブライトの首に回されている。
 武器を振り回していた時期があっただけに、見た目を裏切って案外力強く、簡単には引き剥がせそうにもない。術士として戦っていた自分とは大違いだ。

「許してくれるまで、今日は離れてあげない!」
「冗談だろう?」
「石頭には行動で示せって、ニーナさん言ってたもん」

 女というヤツは、どうしてこう表情がころころと変わるのだろう。
 一つ一つに驚かされてばかりで苛立ったり困ったり、なのに同時に愛おしさも込み上げてくる。

「とりあえずテーブルから降りないとね……行儀が悪いよ、タチアナくん」

 可愛い恋人には甘い罰がお似合いだ。
 思ってもみない突然の行動に、同じように応えてやろう。

 フルブライトは男の意地とばかりに軽々抱き上げると、膝の上のタチアナに、少し大人のキスをした。











喧嘩はタチアナの方がむくれていそうなので、今回は敢えてフル様で。
でもやっぱりフル様弱い……。
脳内設定では、トーマスカンパニーに対抗するための政略結婚だったりする。(笑)
結婚するのはタチアナが大人になってから、ですが。

20050518

文字書きさんに100のお題配布元:Project SIGN[ef]F
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