[ ベッドタイム ]




 宮廷勤めをしていたユリアンが、エレンの仲間になった初日のこと。
 とりあえず休息を取ろうと入った宿屋で、騒動が起きた。

「えぇ?!」
「……何ヘンな顔してるのよ、ユリアン」

 一際大きな声をあげたユリアンにエレンは眉をひそめる。

「だ、だって、エレン! マズイだろ、絶対!」
「今さら何言ってんの? アンタがいない間ずーっとあたしたちはこうなんだけど?」
「ずっと……!」

 エレンは涼しい顔で頷く。
 動揺しているのはユリアンだけで、他の面々は呆れたように二人のやりとりを見つめていた。

「そんな、羨まし……じゃなかった、男と女が二人っきりで同じ部屋なんて、危ないじゃないか!」

 プリンセスガードに入ってエレンをほったらかしにしてしまったことを激しく後悔しながら、ユリアンはまくし立てた。
 実は今夜の宿、四人部屋と二人部屋の二つしか取れなかったのである。
 エレンとハリードが二人部屋、残りの野郎共が四人部屋という内訳になったところで、焦りだしたのがユリアンだ。さも当然というような顔でハリードと部屋に向かおうとしたエレンを声の限り引き止め、異論を唱え始めた。
 エレンに片思い中だけに、必死そのもの。

「あのねぇ、ユリアン。あたしとアンタだって昔は一緒に寝てただろ?」
「昔と今とじゃ男は全然違うんだってば! エレン、勘弁してくれよー!」
「大体、あたしとハリードでどうこうなると思う?」
「絶対にそうならないとは限らないだろー!?」

 自分の意志でそうしたとはいえ、愛しのエレンと離れて生活していたユリアンは、嫉妬心めらめらで、いつになく強硬な態度を押し通す。
 今までだったらまず、エレンに言いくるめられて、すごすごと引き下がるのが常だったのだが。
 エレンは驚きながらも、プリンセスガードに入ってユリアンもちょっとは男らしくなったらしい、と見当違いのことを考えていた。

「とにかく! ハリードと同室なんて絶対にダメだからな、エレン!」

 最後通牒だといわんばかりにユリアンは宣言する。
 どうにもこうにも引き下がらないユリアンに、エレンは諦めのため息をついた。

「……わかったよ。ハリード悪いね、部屋代わってやってくれる?」
「俺なら構わねぇけどよ……」

 ユリアンを横目に見ながら、ハリードは若干心配そうに告げる。
 そんな様子は全く気にせずエレンは言葉を続けた。

「ユリアン、荷物をあたしの部屋に持ってきなよ。今夜はアンタと一緒に寝るから」
「は?」

 エレンの言葉でユリアンはようやく事態がどういう方向に向かい始めたのかに気が付いた。
 どうりでハリードが胡散臭そうな目でユリアンを見るわけだ。

「だってこの分じゃ、同室がトーマスだろうが、シャールだろうが、ロビンだろうが、アンタうるさそうだもん。今日のところはそれでいいでしょ?」
「え、いや、でも、そ、それはそれでヤバイ……」
「つべこべ言わない! いやなら今すぐ放り出すよ!」

 オレも一応男なんだけど。
 ユリアンは冷や汗を流しながら、堪忍袋の緒が切れかかったエレンの迫力に黙り込んだ。
 エレンと二人っきりの夜に喜んでいいのか、未だ男だと思われていない事実に悲しむべきなのかわからない。
 それ以前に理性が保つのか自信がない。
 理性が吹っ飛んだ暁には、さらにパワフルになったエレンに半殺しの目に遭わされるのも間違いなく。
 あぁ、でも他の男がエレンと二人っきりになるなんて耐えられそうにもないし!
 どうしよう、どうしよう、オレ!

「じゃ、みんなお休み! 明日は7時起床だからね!」

 一人葛藤中のユリアンを引きずって、エレンは爽やかに言い放った。

「……かわいそうに」

 そう思う面々の中で、誰一人として『いっそ四人部屋にエレンが寝ればいいのでは?』というもっともな提案をするものはなかった。
 男女同室であることに変わりなくとも、とりあえず「二人きり」という点は免れるはずなのだが。

「面白いものが見られたな」

 みんなの心を代弁するようにシャールが呟き、今日も夜が更けていった。









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うちのパーティは大体こんな面々です。
ときどきトーマスとハリードが消えて他のキャラになる。
ユリアンはみんなに遊ばれてたりしてほしい・笑。



2003.7.7