[ ワンスアポンアティー ]




 トーマスが少し前に送ってくれた紅茶。
 仕事で行った地域の特産品だとかで、結構有名らしいんだけど、オレはよくわからない。
 ただエレンが機嫌良くお茶の準備をするから、いいものなんだろう。
 わざわざ紅茶に合わせてスコーンなんて焼いたりして、オレはその姿をちょっと眩しい気持ちで見つめていた。ちょっと前までだったら考えれられなかった幸せな光景。
 今、オレとエレンの薬指には揃いの指輪がはまっている。
 そう言えば、分かるだろうか?

「オレも何か手伝おうか?」

 普段はオレも家事、手伝うんだけど。
 今日は「いいから、座ってなよ」と珍しく優しい言葉。
 いつも優しくない、って意味じゃなくて、結婚してもエレンは変わらずエレンだってことだ。

「何笑ってるの?」
「エレンはエレンだなって思ってさ」
「当たり前じゃない」
「うん、だから好きなんだよな」

 普段だったら「アンタってホント馬鹿だね」だとか照れ隠しに怒ったりするエレンが、今日はまるっきり違う。
 それはそれは愛おしそうな目でオレを見つめて、微笑みかけてくれた。
 オレとエレンの関係が幼なじみでしかなかった頃と同じに、胸が高鳴る。

「……ねぇ、今日が何の日だか覚えてるよね?」
「え?」

 エレンがオレの答えを待っている。
 だけど、今日が何の日か、なんてことは頭の中に少しも浮かびやしない。
 穏やかで優しげな表情が徐々に機嫌の悪いものになっていき……。
 案の定爆発した。

「もう! 覚えてないわけ?! あーあ、アンタってホントいい加減」
「あ、その、さ」
「覚えているかも、なんて期待したあたしが馬鹿だったよ」
「ご、ごめん……」
「ワケも分からず謝らないの」

 とはいえ、怒っているエレンをそのままに、なんて出来るわけがない。
 昔からオレは平謝りだけは得意だから……ってそういう情けない話じゃなくて!

「今日はね、あたしにとってとても大事な日。だからさ……ちょっと思い出しただけ」

 えーと……結婚記念日、は違うな。それはまだ先の話だ。
 エレンの誕生日を忘れるほど間抜けじゃないし、自分の誕生日だって忘れるわけないだろ?
 うーん、エレンにとって大事な日、オレが覚えているはずの日……一体なんだろう。

「エレン、やっぱりオレ、分からないんだけど……」
「……もういいよ。紅茶が冷めちゃう」
「え、でも」
「うるさいな! 恥ずかしいから自分では言いたくないのよ!」

 真っ赤になったエレンをオレは可愛いなぁと思いながら、押し付けるように手渡されたソーサーを受け取った。
 カップの中ではルビーのような深い赤が揺れている。

「へぇ、この紅茶、珍しい色だね」
「……だから今日飲もうと思ったのにさ……」

 ああ、そうだ。
 オレはようやく気が付いた。

 今日はオレがプロポーズをした日じゃないか。
 赤い小さな宝石を指輪に仕立てて、エレンにプレゼントしたんだ。

 エレンはそれを覚えていて、祝いたかったのかもしれない。
 二人だけしか知らない特別な日だから。
 だって、プロポーズの日付なんて、当事者以外の誰が覚えていられる?

 ……俺もずいぶん愛されるようになったじゃん。

 まだエレンがつれなかった頃を思い出しながら、オレはエレンの手をとって、指輪をはめたその場所に口付けを一つ落とした。





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タイトルの意味が分からなくてすいません。
昔とティータイムを混ぜただけです……響きが可愛いかと思って。

ちょっと甘めにしてみた。(これでか)



2003.7.11